木のまち吉野~貯木地域のご紹介~

「吉野町の駅で電車を降りると、木の香りがする」という方が少なくありませんが、街から来られた方にとっては、森の香りや、材木の香りはとても新鮮なものなのだと思います。
ずっと吉野に住んでいる私は、その木の香りが、当たり前の感覚になってしまっていることに気付きます。

吉野地域は林業発祥の地として500年以上の歴史があります。
吉野町は伐採された原木が吉野川を経由して各地域から集められ、競りや製材が行われてきた場所なので、今でも貯木場や製材所が多く残っています。

現在では、建築材料としては安価な木材に取って代わられ、「高かろう、良かろう」の超高級材となってしまった吉野杉や吉野桧のブランドは、肩身が狭い時代が続いてきました。
そのため、最盛期の頃と比べると、製材所の数は半分以下に減ってしまっています。

…といった、貯木地域の歴史に関するお話は置いておいて、私はこの貯木エリア(貯木場や製材所がある地域の通称)を、のんびりと気分の赴くままに歩いてみました。

近鉄吉野線の吉野神宮駅を降りると、うん、確かに木の香りがするような。
駅の裏側、線路の向こう側の道を通ると、その昔、原木を運んだ引き込み線の跡を見つけることが出来ます。

私、鉄道マニアではないのですが、その線路の跡を見て、残されて錆びた線路に哀愁を感じて写真を撮りたくなる気持ちが分かりました。
引き込み線を廃止した際に、地元業者に線路を安く引き払う機会があったとのことですが、その歴史もあってか、今でも原木を置く台として、錆びた線路があちこちで使われていることに気が付きます。

のんびりと道を進んでいくと、フォークリフトが勢いよく、普通の車のように道に飛び出してくることがしばしばあります。
あんな風にコントロールする技術はすごいなぁ、と感心していると、知らぬ間に周りは製材所だらけになっています。
ここまでくると、空気に含まれている木の成分が濃い!と感じます。
切りたてのツンとした木の香りが辺りを包み、何とも新鮮な気分になります。

丸太、四角く製材されたもの、薄く板状になったもの、様々な姿の材木が、あちらこちらに積み並べられていて、どこを見ても興味深く、またカメラを向けたくなる風景が続きます。

工場内を覗くと、大きな機械が音を立てて丸太の角を落としていきます。
いや、丸太だから角はないのか。
えっと、丸を四角にしていくのです。

この木材は、住宅の柱になるのかな?
更に薄くスライスされていく木材は、床材かな?
なんて想像が働きますが、こんな新しい木でつくられた家は、さぞかし気持ちが良いものだろうなと思ってしまいます。

製材所の屋根には、木材を加工する際に出る挽粉を集める壺が設置されていて、それぞれ少しずつ形が違います。
銀色の大きな煙突がそびえるような風景は、青空に映えており、なんだか帆船をかたどったような幻想的な風景にも見えます。

吉野川の堤防を流れに沿って下っていくと、割り箸を作っている工場があります。
製材の際に切り落とされた木の端材が、製箸機によってどんどん割り箸の形になっていきます。
機械の動きが速いため、どのタイミングで、どの工程の加工作業が行われているのか、説明されても理解できないほどのスピードどんどん割り箸ができていきます。

普段、木の端材は捨てられる運命にあるのですが、先人の知恵で、それらを材料とした割り箸作りが吉野の新たな産業になりました。
よく考えれば、ブランド木材である吉野杉や吉野桧で作られた割り箸だと思うと、使うのがちょっともったいなくなりますね。

反対に、吉野川の流れを遡っていくと、大きな貯木場の隣に、レトロで趣ある建物がどっしりと建っています。

現在では、吉野町役場の「木のまち推進室(吉野町上市2294-1)」のオフィスとなっている建物ですが、元々は、吉野木材協同組合連合会の事務所でした。
当時のままの建物が残っており、全てのしつらえが良い感じに古くオシャレで、丸い窓や模様の入ったガラスが醸し出す雰囲気が素敵です。
ちなみに、窓枠の木が老朽化しており、断熱材も入っていないので、冬は寒く、夏は暑いとのこと。
古き良きものと、快適さの共存はなかなか難しいですね。

一方で、近代デザインと木の素材の良さを調和させた建物が、吉野川沿いに建っている「吉野杉の家」です。
特徴的な三角の屋根のスタイリッシュな家が、吉野川を眺めるようにして、2本の大きなケヤキの木の間に収まっています。

この「吉野杉の家」は、全面が木材で出来ており、吉野の風景にしっくりと馴染んでいます。
家の中も床・壁・天井の全てが、吉野の杉と桧で造られ、一歩中に入るだけで木の香りに包まれます。
しかも、トイレやシャワールームまでもが同じように内装されていて、なんとも贅沢の一言。

貯木エリアにある製材所では、杉や桧といった木の種類別や、建築材、集成材、家具や木製の雑貨、など、各製材所の得意分野に合わせたものづくりを行っています。
吉野の貯木地域では、安価な外材に押されながらも、高品質の商品に誇りを持ち、厳しい時代を生き延びている製材所の皆さんの気概を感じることが出来ます。

そんな歴史と汗のしみ込んだ景色は、どのアングルを切り取っても「ステキ」があふれていて、思った以上に歩く時間が楽しいので、ぜひ皆さん、吉野に来られた際には貯木地域に立ち寄ってみて下さい。